大型トラックの脱炭素は「FC(燃料電池)」が本命か?次世代トラック・インフラの現在地


「2024年問題」への対応をはじめ、物流業界を取り巻く環境は激動の最中にあります 。それに加え、近年では荷主企業様から「輸送にかかるCO2排出量の削減(脱炭素化)」を強く求められるケースが増えているのではないでしょうか 。

トラックの脱炭素化においては、バッテリーEV(BEV)も選択肢の一つですが、充電時間の長さやバッテリー重量による積載量の減少が課題となり、長距離運行には不向きとされる側面があります。そこで、長距離輸送において「本命視」されているのが、水素をエネルギーとする燃料電池(FC)トラックです。



1.ディーゼル車に近い運用が可能なFCトラック

FCトラックには、運送事業者様にとってメリットとなる以下の特徴があります。

  • 充填時間 :15分〜30分程度と短く、従来のディーゼル車両に近い運用が可能です。
  • 航続距離 :600km以上を走行でき、幹線輸送にも実用的な距離です。
  • 積載量  :重いバッテリーを搭載しないため、積載量への影響が小さいのが利点です。

今回は、物流現場における水素活用の現在地と、今後のインフラ整備についてお伝えします。

2.国の最新動向:福岡県が「重点地域」に

まず、大きな動きとして、国(経済産業省)による商用FC(燃料電池)車普及への強力な後押しがあります。

2025年5月19日、経済産業省は商用FC車の普及を集中的に支援する「重点地域」の第1回選定結果を発表しました。公募により選定されたのは、以下の5地域です。

  • 東北重点地域 (中核自治体:福島県)
  • 関東重点地域 (中核自治体:東京都及び神奈川県)
  • 中部重点地域 (中核自治体:愛知県)
  • 近畿重点地域 (中核自治体:兵庫県)
  • 九州重点地域(中核自治体:福岡県)

福岡県は全国の主要都市と並び、国から「水素物流の先行モデル地域」として認定されました。これにより、ステーションの整備費・運営費への支援や、水素と軽油の価格差を埋める支援が行われる見込みとなり、FCトラックが走りやすい環境整備の加速が期待されています。

3.水素ステーションは足りているのか?

導入にあたって最大の懸念点は、給油(充填)する「水素ステーション」の数でしょう。

2025年11月時点で、全国の稼働中水素ステーションは148箇所です。ガソリンスタンドと比較すると、インフラとしては発展途上であることは否めません。福岡県内においても、稼働するステーションは7箇所にとどまっています。

「トラックを入れたくても近くにステーションがない」「あっても営業時間が短い、またはトラックに対応していない」といったインフラ不足が、導入検討のハードルとなっているのが現状です。

4.国内メーカー各社の車両開発動向

つづいて、車両側の開発状況を見ていきましょう。

日野自動車・トヨタ自動車(量産開始)

業界のトップランナーとして、2025年10月に大型FCトラック「日野プロフィア Z FCV」を発売しました。航続距離は約650kmを誇り、既存のディーゼル車と同じラインで生産(混流生産)される初の量産モデルとして注目されています。

いすゞ自動車・本田技研工業(2027年投入予定)

いすゞはホンダとタッグを組み、2027年に大型FCトラック「GIGA FUEL CELL」の市場投入を予定しています。大型に先駆け、エルフベースの小型FCトラックは既に市場投入済みで、福岡県内の運送事業者でも導入実績があります。

三菱ふそうトラック・バス(2種類の水素駆動トラック)

「Japan Mobility Show 2025」で、2種類の水素大型トラックを世界初公開しました。水素エンジンの「H2IC」と、液体水素で航続1,200kmを実現する燃料電池車「H2FC」です。EVトラックのトップランナーとして、水素の領域でも注目されています。


5.まとめ

水素インフラは、「車がないとステーションができない」「ステーションがないと車が売れない」という『鶏と卵』の関係にあるとよく言われます。

私たち新出光は、長年地域のエネルギーを支えてきた企業として、この課題に真摯に向き合ってまいります。
現在は、国による重点地域選定という追い風も受けつつ、社会全体の脱炭素化の動向や、何より現場で走る運送事業者様のニーズを慎重に見極めながら、福岡・九州におけるステーション整備や運営のあり方を検討しています。

単に建設するだけでなく、「お客様が本当に使いやすい場所・タイミング」を見極めることが重要だと考えているからです。

皆様のリアルな声を反映させながら、持続可能で使い勝手の良い、新しい物流インフラの形を共に模索していきたいと考えております。

バイオディーゼル燃料の導入検討の際には、新出光 産業エネルギー課へぜひお気軽にお問い合わせください。

文:エネルギー事業部 営業戦略課

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